【トレンド手法】ミニマルデザインとは?空間や店舗設計に用いられる引き算のデザインを解説!
近年、空間デザインのトレンドとして注目されるミニマルデザイン。「Less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」という思想のもと、余計な装飾を削ぎ落とし、本質だけを残す引き算のデザイン手法です。
飲食店や美容室などの店舗設計において、ミニマルデザインは単なる見た目の美しさだけでなく、顧客体験の向上やブランド価値の確立といった実務的なメリットをもたらします。本記事では、ミニマルデザインの歴史から空間設計における実践的なポイント、そしてRAWMANが手掛けた実例まで、店舗設計に役立つ情報を詳しく解説します。
ミニマルデザインとは何か

ミニマルデザインの定義と基本概念
ミニマルデザインとは、装飾を最小限に抑え、必要な要素だけで構成されたデザイン手法です。「ミニマル(Minimal)」は英語で「最小限の」を意味し、余計なものを省いて本質だけを残すという考え方に基づいています。
空間設計におけるミニマルデザインの特徴は、シンプルな形状、限られた色数、余白の活用、素材そのものの質感を活かす表現です。装飾を削ぎ落とすことで、空間に残された要素一つひとつの存在感が際立ち、洗練された印象を生み出します。
単に「シンプル」なだけではなく、何を残し、何を削るかという判断に、明確な意図と計算が必要です。要素が少ないぶん、一つひとつの質が問われるため、難易度の高いデザイン手法といえます。
フラットデザインとの違い

ミニマルデザインとよく混同されるのがフラットデザインです。フラットデザインは、立体感や質感を表現するための装飾(グラデーション、影、光沢など)を取り除いた平面的なデザインを指します。
一方、ミニマルデザインは不要な要素そのものを削ぎ落としていくという考え方です。立体感があってもミニマルデザインは成立しますし、フラットでもミニマルでない場合もあります。
フラットデザインが「どう見せるか」という表現手法であるのに対し、ミニマルデザインは「何を残すか」という思想に基づくデザイン哲学といえます。

ミニマルデザインの歴史と発展

バウハウスから始まる思想的背景
ミニマルデザインの起源は、1919年にドイツで設立された造形学校「バウハウス」にさかのぼります。バウハウスはドイツ語で「建築の家」を意味し、建築家ヴァルター・グロピウスによって創設されました(※1)。
第一次世界大戦後の混乱期、バウハウスは「芸術と産業の融合」を目指し、装飾を廃して機能性を追求するモダンデザインの基礎を築きました。「Form follows function(形態は機能に従う)」という理念のもと、美しさは機能から自然に生まれるという考え方を提唱しました。
1933年にナチスの弾圧により閉校されるまでのわずか14年間でしたが、バウハウスの理念はアメリカをはじめ世界中に広まり、現代デザインの源流となっています(※1)。
※1 バウハウス – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/バウハウス
ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more」

バウハウスの3代目校長を務めたドイツの建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエは、「Less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」という名言を残しました。
この言葉は、余計な装飾を削ぎ落として重要な要素だけを残すことで、かえって豊かで美しい空間が生まれるという思想を表しています。ミースが設計した「バルセロナチェア」は、必要最小限のパーツだけで構成されながら、機能美を極めた椅子として今なお愛されています。
「Less is more」の精神は、現代のミニマルデザインの中核をなす考え方として受け継がれています。
日本の禅思想とミニマリズムの関係

ミニマリズムの思想は、日本の禅文化とも深いつながりがあります。禅では、余計なものを省き、本質だけを残す「引き算の美学」が重視されてきました。
茶道における侘び寂びの精神は、簡素・質素の中に内面的な豊かさを求める考え方です。茶室の空間構成は、余白を活かし、最小限の要素で最大限の美を表現するミニマルデザインそのものといえます。
禅庭園の枯山水も、石と砂だけで山水を表現する究極のミニマリズムです。日本人が古くから培ってきた美意識が、現代のミニマルデザインに影響を与えています。
現代における再評価とトレンド化

2000年代以降、ミニマルデザインは世界的なトレンドとして再評価されています。その背景には、情報過多な現代社会において、シンプルで分かりやすいデザインが求められているという事情があります。
AppleのiPhoneに代表されるように、無駄を削ぎ落としたデザインは機能性と美しさを両立させ、多くの人々に支持されました。Aesopやブルーボトルコーヒーなど、ミニマルな空間デザインを採用したブランドが成功を収めたことも、トレンド化を後押ししました。
店舗設計においても、ヘアサロン、アパレル、飲食店など幅広い業態でミニマルデザインが採用されています。コンクリート打ちっぱなしやホワイト一色の空間に、余計なものを見せないシンプルなデザインが人気を集めています。

空間・店舗設計におけるミニマルデザインの魅力

ブランドメッセージが明確に伝わる
ミニマルデザインの最大の魅力は、伝えたいメッセージを明確に届けられることです。要素が少ないぶん、残された一つひとつが強い印象を与えます。
飲食店であれば料理に、美容室であれば顧客自身に視線が集中します。装飾が多すぎると注意が散漫になりますが、シンプルな空間では本当に見せたいものが際立ちます。
ブランドのコンセプトや世界観を、余計なノイズなしでダイレクトに伝えられる点が、ミニマルデザインの強みです。
顧客の滞在時間と快適性の向上

視覚的な情報量が少ない空間は、脳への負担が少なく、リラックスできる環境を作り出します。長時間過ごしても疲れにくいため、顧客の滞在時間が自然と延びる傾向があります。
美容室では施術時間が長いため、落ち着ける空間づくりが重要です。ミニマルな内装は圧迫感がなく、心地よい時間を過ごせます。
飲食店でも、料理や会話に集中できる環境として、ミニマルデザインが選ばれています。
SNS映えと口コミ効果

洗練されたミニマルな空間は、写真映えするため、SNSでの拡散効果が期待できます。余計なものが写り込まないシンプルな背景は、被写体を美しく見せます。
顧客が自発的に写真を投稿することで、広告費をかけずに店舗の認知度を高められます。特にInstagramとの相性が良く、統一感のあるビジュアルがブランドイメージの向上につながります。
メンテナンスコストの削減

装飾が少ないミニマルデザインは、掃除がしやすく、メンテナンスの手間とコストを抑えられます。複雑な造作や細かい装飾がないぶん、日常的な清掃が簡単です。
また、流行に左右されにくいデザインのため、数年で古臭く見えることが少なく、長期間使い続けられます。改装の頻度を下げられることも、ランニングコスト削減につながります。
長期使用による環境負荷の軽減

ミニマルデザインは、サステナビリティの観点からも優れた選択肢です。流行に左右されないタイムレスなデザインは、長期間にわたって使い続けられるため、改装頻度を抑えられます。
国土交通省の調査によると、日本の建築物の平均寿命は住宅で約30年、店舗・事務所では20年程度とされていますが、これは欧米諸国と比較して短い傾向にあります(※2)。頻繁な改装は、解体時の廃棄物発生や新たな資材調達による環境負荷を生み出します。
ミニマルデザインと環境配慮は、本質的に相性が良い関係にあります。必要最小限の素材で空間を構成することは、製造・施工時の資源使用量を抑えることにつながるからです。サステナブルな建築を実現するには、できるだけ少ない材料で作られた建材を選ぶことが重要とされています(※3)。
また、無垢材、石材、コンクリートといった自然素材は、経年変化を楽しめる素材でもあり、時間とともに味わいが増していきます。質の高い素材を厳選して使用することで、建材そのものの耐久性が高くなり、長持ちすればするほど建て替えや修繕の頻度が少なくなります(※3)。
近年の店舗設計では、FSC認証(森林管理協議会による環境配慮の認証)を受けた木材や、古民家から出た古材を活用する事例も増えています。こうした取り組みは、環境への配慮を示すだけでなく、ブランドイメージの向上にもつながります。
環境省が推進する「循環型社会」の考え方においても、長く使える質の高いものを選ぶことは、廃棄物削減の重要な手段とされています(※4)。ミニマルデザインの「Less is more」という思想は、持続可能な社会づくりとも通じる考え方といえるでしょう。
※2 国土交通省「建築物のストック統計」https://www.mlit.go.jp/statistics/details/jutaku_list.html
※3 求人@インテリアデザイン「今考えたい、サステナブルな建築や素材とは?」https://job.tenpodesign.com/magazine/article/79
※4 環境省「循環型社会形成推進基本計画」https://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku.html

飲食店でミニマルデザインを取り入れるメリット

料理や食材に視線が集中する効果
ミニマルな空間では、料理そのものが主役になります。装飾的な内装が少ないぶん、盛り付けや食材の色彩が際立ちます。
特に高級飲食店では、料理一皿一皿に込められた職人の技術や食材の質を、余計なノイズなしで伝えられます。白やベージュを基調とした内装は、料理の色を美しく引き立てます。
高級感と清潔感の演出

ミニマルデザインは、高級感と清潔感を同時に演出できます。余計なものがない空間は、整理整頓が行き届いているという印象を与え、衛生面への信頼感も高まります。
素材の質感を活かした仕上げは、上質な雰囲気を醸し出します。コンクリート、木材、石材など、自然素材そのものの美しさが空間の格を決定づけます。
少人数店舗との相性の良さ

カウンター中心の小規模店舗では、ミニマルデザインが特に効果を発揮します。限られた面積でも、余白を活かすことで開放感が生まれます。
必要最小限の設えに絞ることで、狭さを感じさせない空間を実現できます。職人との距離感を大切にする寿司店やバーなどで、ミニマルデザインが選ばれる理由です。
【事例】鮨 白銀に見るミニマル空間

RAWMANが手掛けた「鮨 白銀」は、東京都港区にあるわずか18㎡(約5.4坪)の寿司店です。小規模ながらも、ミニマルデザインによって高級感のある空間を実現しています。
限られた空間の中で、無駄な装飾を一切排除し、素材の質感と職人の技術に視線が集まる設計です。カウンターや壁面の仕上げにこだわることで、狭さを感じさせない洗練された雰囲気を醸し出しています。

美容室でミニマルデザインを取り入れるメリット

施術に集中できる落ち着いた空間
美容室の施術時間は数時間に及ぶことも多く、顧客がリラックスできる環境が求められます。ミニマルデザインは視覚的なノイズが少ないため、落ち着いて施術を受けられます。
鏡に映り込む背景がシンプルだと、ヘアスタイルそのものに集中できます。カウンセリング時も、余計な情報が目に入らず、スタイリストとの会話に集中しやすくなります。
スタイリッシュなブランドイメージの確立

ミニマルな内装は、洗練されたブランドイメージを確立するのに効果的です。トレンドに敏感な顧客層に対して、センスの良さをアピールできます。
シンプルながら質の高い空間づくりは、技術力への信頼感にもつながります。「細部まで気を配っている」という印象を与え、顧客満足度の向上に寄与します。
小規模サロンでも洗練された印象

個人経営や少人数で運営する美容室では、限られた面積を有効活用する必要があります。ミニマルデザインは、狭い空間でも開放感を生み出せます。
余白を恐れず、必要最小限の家具や設備に絞ることで、圧迫感のない心地よい空間が完成します。
【事例】eN by youres hairに見るミニマルデザインな美容室

RAWMANが手掛けた「eN by youres hair」は、東京都中央区に位置する約90㎡(約27坪)の美容室です。
ミニマルな空間構成でありながら、温かみのある素材選びによって、居心地の良さを両立させています。シンプルな内装の中に、質の高い素材を効果的に配置することで、洗練された美容室空間を実現しています。

ミニマルデザインがマッチしにくい業種・業態

情報量が多い業態には不向き
ミニマルデザインは、多くの情報を一度に伝える必要がある業態には向きません。例えば、口コミサイトのように多数の選択肢を一覧表示する場合や、ニュースサイトのように最新情報を大量に掲載する必要がある場合です。
店舗では、多種多様な商品を陳列して選ぶ楽しさを提供する業態(大型ディスカウントストアなど)では、ミニマルデザインが逆効果になることもあります。
賑やかさや活気が求められる店舗

居酒屋や大衆食堂など、賑やかさや活気が魅力の飲食店では、ミニマルデザインが雰囲気にそぐわない場合があります。装飾的な要素が、店の個性や温もりを演出していることもあるからです。
また、エンターテインメント性を重視する店舗(テーマパークレストラン、コンセプトカフェなど)では、視覚的な刺激が重要な要素となるため、ミニマルデザインは適さないでしょう。
ファミリー層がメインターゲットの場合

小さな子供連れの家族がメインターゲットの場合、ミニマルすぎる空間は冷たい印象を与えることがあります。子供が楽しめる要素や、親しみやすさが求められる場面では、適度な装飾や色彩が必要です。
ただし、ファミリー層向けでも、落ち着いた雰囲気を求める層に向けては、ミニマルデザインが有効な場合もあります。ターゲットの明確化が重要です。

店舗設計でミニマルデザインを実現する5つのポイント

配色は2〜3色に絞る

ミニマルデザインでは、配色をできるだけ絞ることが基本です。ベースカラー、メインカラー、アクセントカラーの3色程度に抑えることで、統一感のある洗練された空間になります。
白、ベージュ、グレーなどの中立的な色をベースに、黒や木材の茶色をアクセントに使うのが定番です。色が多すぎると、せっかくのシンプルさが損なわれてしまいます。
素材の質感で深みを出す

色数を絞るぶん、素材の質感で空間に変化と深みを持たせます。コンクリート、木材、石材、鉄など、素材そのものの表情を活かすことで、単調にならない空間を作れます。
例えば、壁はコンクリート打ちっぱなし、床は無垢の木材、カウンターは石材といった組み合わせで、シンプルながら奥行きのあるデザインが完成します。
余白を恐れず、空間に呼吸を持たせる

ミニマルデザインで最も重要なのが余白の使い方です。スペースが空いているからといって、何かで埋めようとしてはいけません。
余白があることで、残された要素が際立ち、空間全体に余裕が生まれます。壁面に何も飾らない勇気、家具を置かない決断が、洗練された空間を作り出します。
照明計画で雰囲気をコントロール

ミニマルな空間では、照明が空間の印象を大きく左右します。間接照明を効果的に使い、陰影をつけることで、シンプルな空間に表情が生まれます。
ダウンライトやペンダントライトも、デザインがシンプルなものを選びます。照明器具そのものが装飾にならないよう、できるだけ目立たないデザインが理想です。
必要な機能は削らず、見せ方を工夫する

ミニマルデザインは「削ぎ落とす」ことが基本ですが、必要な機能まで削ってしまっては本末転倒です。使い勝手を損なわないよう、機能は確保した上で、見せ方を工夫します。
収納は扉付きにして中身を隠す、配線は壁の中に隠す、設備機器は目立たない場所に配置するなど、視覚的にはシンプルでも、機能的には十分な空間を目指します。

ミニマルデザインの注意点とよくある失敗

削ぎ落としすぎて使いにくい空間になる
ミニマルデザインの失敗例として最も多いのが、削ぎ落としすぎて使い勝手が悪くなることです。見た目の美しさを優先するあまり、顧客やスタッフの動線が悪くなったり、必要な収納が不足したりする事態は避けなければなりません。
デザイン性と機能性のバランスを常に意識し、実際の運用を想定した設計が必要です。オープン前にスタッフに動いてもらい、動線や使い勝手を確認することをおすすめします。
個性が失われ印象に残らない

ミニマルデザインは、やりすぎると無個性になるリスクがあります。どこにでもあるような空間では、顧客の記憶に残りません。
シンプルな中にも、素材選びや照明計画、一点だけのアート作品など、店舗の個性を表現する要素を残すことが大切です。「引き算」の中に「何を残すか」というセンスが問われます。
思ったより費用がかかる

「シンプル=安い」というイメージがありますが、実際には高コストになることもあります。素材の質感を活かすためには、質の高い素材を選ぶ必要があり、材料費がかさむ場合があります。
また、コンクリート打ちっぱなしや左官仕上げなど、職人の技術が求められる仕上げは、工賃が高額になります。予算内で理想を実現するには、メリハリをつけた投資が重要です。
見える部分には上質な素材を使い、見えない部分はコストを抑えるなど、優先順位を明確にした予算配分を心がけましょう。

まとめ:ミニマルデザインで唯一無二の空間を

マルデザインは、余計な装飾を削ぎ落とし、本質だけを残す引き算の美学です。バウハウスから始まり、日本の禅思想とも通じるこのデザイン手法は、現代の店舗設計において多くのメリットをもたらします。
飲食店では料理に、美容室では顧客自身に視線が集中し、ブランドメッセージを明確に伝えられます。SNS映えする洗練された空間は、口コミ効果も期待できます。
ただし、情報量の多い業態や賑やかさが求められる店舗には向かない場合もあります。また、削ぎ落としすぎて使いにくくなったり、個性が失われたりしないよう注意が必要です。
配色を絞り、素材の質感を活かし、余白を恐れず、照明で雰囲気をコントロールする。必要な機能は残しながら、見せ方を工夫する。これらのポイントを押さえることで、ミニマルでありながら個性的な、唯一無二の空間が実現できます。
株式会社RAWMANは、飲食店や美容室など多数の店舗設計実績を持つ空間デザインのプランニングスタジオです。設計から施工までワンストップで対応し、お客様の想いを形にしています。
ミニマルデザインによる店舗設計をお考えの方は、ぜひRAWMANにご相談ください。

